大人の読書感想文 フードバンクどろぼうをつかまえろ!を読んで

本日8/26(土)。夏休み前の最後の土日ということで、子供の宿題の面倒を見ている親御さんもそこそこいることでしょう。

そんなわけで、今日は今年の小学校中学年用の課題図書「秘密の大作戦!フードバンクどろぼうをつかまえろ!」の感想文をいい年こいて書いてみようと思います。大人はどんな感想文書いても怒られないからね。大人はいいぞ。

 

 

あらすじ

主人公の男の子ネルソンは、他に女を作った父親が出て行ってしまったため、看護師の母、妹のアシュリーと食べるにも困る極貧生活を送っている。そんな彼の生活を支えてくれていたのは、学校が行ってくれている朝食提供と「フードバンク」だった。

しかしある時から、フードバンクが提供してくれる食品の量が少なくなり、ネルソンの生活は更に苦しいものになっていく。噂によれば、フードバンク用の食品を盗んでいる泥棒がいるらしい。あまりの生活の苦しさに、形見の品すら質に入れてしまった母親の姿を見て、ネルソンはフードバンク泥棒を捕まえることを試みる。

同じ学校の友人、クリシュとハリエットと協力し、スーパーに張り込んでいたネルソンは、寄付用の食品を盗む泥棒を発見。見事泥棒を捕まえて表彰されました、めでたしめでたし。

 

作者の気持ち

この物語は、いちおう児童書らしく子供が活躍するストーリーになっていますが、個人的な感想としてはそれは子供が心地良く読める物語を成立させるための味付けに過ぎず、描きたいポイントのメインは貧困家庭の実情にあるのではと感じました。

作中ではサラッと1文で書かれていますが、他に女を作って家を出ていく父親だけでもだいぶハードです。

ガリガリの腹を見せてくる妹、何もないことをわかっていて開ける冷蔵庫、今食べている粗末な食事をごちそうだと想像して耐える"遊び"など、食うにも困る人間の生活の描写は作品を通じて妙に詳細です。

特に、自分が食べているフードバンクの食材が友人の親の憐憫によって寄付されていたことを知り、主人公が羞恥に苛まれるシーンは、読んでいるこっちが辛くなるものがありました。

 

寄付用食品だけを奪う窃盗団

私がこの本を読んで結構びっくりしたのは、作中で泥棒が実在したことです。フードバンクの食品提供が減ったとして、必ずしも泥棒とは限らないのでは?と思いながら読み進めていたのですが、何のひねりもなく作品終盤で泥棒が登場しました。

悪役としての泥棒がいないとオチが付かないから、というのが大きな理由でしょうが、こんな泥棒がもし実在したら、と考えてみるとそのバックグラウンドもたいがい厳しい気がします。

スーパーから物を盗むのでも、通常の商品でなく寄付用食品であれば確かに店側も真剣に在庫を管理せず、盗りやすいというのはあるでしょう。だけれど、普通に働くのでなくわざわざ盗まなければいけない人間、そしてそのターゲットとしてフードバンク用の寄付品を思いつく人間もかなり貧困寄りの層に思います。

いちおう作中では、その窃盗団は盗んだ食品を売りさばいており、その食品の量は倉庫2、3個分にも及んだ――というエピソードでネルソンよりは食うに困る生活をしていたわけではなさそうな描写があります。だけど、大人は現金が無いとどうしても困る瞬間があって、食品だけあれば済むというわけではないため、私はこの窃盗団にも多少の同情をしてしまいます。

もう少し嫌な言い方をすると、他人からの施しが無いと生きていけない人間と、他人から奪わなければ生きていけない人間にそこまでの差があるのだろうか、これは本当に『良い話』なんだろうかなんて思ってしまうのです。

 

 

この本で読書感想文を書くには?

もしこのブログにたどり着いた人の中に読書感想文のアイデアを求めている人がいたら申し訳ないので、多少読書感想文の書き方の指針みたいなのを以下に書いてみます。

 

×こういうブログみたいな品評

評論的な文章は書いていけないわけではないし、それも一つの感想文としてあって良いものなんですが、小学校の読書感想文コンクールで求められているのは本の内容をダシにした感動的な私的エッセイです。

特に小学生がこういう上メセとか冗談の入った文章書くと教員から反感を買います。やめましょう。

 

○他人事みたいな感想

「ネルソンは毎日お腹が空いて辛かったのだと思います。だから、フードバンクどろぼうは許せません」などとありきたりで他人事みたいな感想文を作りましょう。

読書感想文を提出するだけならこれで十分です。提出期限を守り、他のテストで十分な点数取っていれば、読書感想文で大幅に通知表下げられることも無いです。

この形式の厳しいところは、実生活に基づいたエピソードが薄いため、尺が稼ぎづらいところです。自分がお腹減った日の話、冷蔵庫の中のものを勝手に食べてお母さんに怒られた話など、関係ありそうで関係ないエピソードをぶちこんで尺を稼ぎましょう。

的外れな感想文にはなってしまいますが、貧困の実際がわからず、それゆえに感想文もうまく書けない子供が多い世界の方が私は好きです。

 

△クラスメイトの貧困エピソード

自分が貧困でなくても、学年に1人ぐらいは家庭事情が厄介な人がいるでしょう。尺を稼ぎやすいですが、教員に怒られるのでやめましょう。

「○○くんが僕の家に来るたび、ポテチを一袋全部食べていく理由がわかりました」などと書いた日には呼び出されると思います。

「僕の家は2台Switchがありますが、○○くんの家には1台もありません。だから、○○くんは弟のSwitchにセーブデータを作っています」などと現代的で生々しい家庭間格差の話をしてもいけません。

物語の中の外国人のネルソンくんでなく、身近にいる実在の人物が貧困に苦しんでいるのだ、という実感を得ることはものすごく大事なことだと私は思うのですが、同じ学校の人間のプライベートを切り売りすると教員の側も誰の事だかわかってしまうのでダメです。

貧困という、重く、他人の尊厳にかかわるテーマを扱ってる時点でこの課題図書はすごく書きにくいです。

 

◎自分の貧困エピソード

クラスメイトはダメですが、自分を切り売りすると倫理上の問題が少なくなります。

自分自身が貧困なうえで、上手な文章を書き上げるだけの知能はもっていないといけないという厳しい条件がありますが、これができたらバカウケです。

さっきも言ったように、読書感想文は結局本の内容をダシにしたエッセイです。自分が強いエピソード持っているに越したことはないので、エピソードが弱い方は諦めてください。

 

○フードドライブ(フードバンクへの寄付)をしてみよう

エピソードが無ければ今からでも作ればいいじゃない(マリーアントワネット)。

身近なところでは、ファミリーマートがフードドライブ活動を全国でやっているみたいです。近所のファミマに食品を持ち込んでみましょう。

家にあった食品のチョイス、受け取ったことなくてキョドるベトナム人店員の様子など、フードバンクへの寄付を実際にやってみた経緯を書くだけで数百文字埋めることができます。

まあこのインフレで食品の値段上がってるときに、他人に渡せるような保存食品なんざ家に残ってないけどね、あはは。食うに困るほどでなくても他人に施ししているような余裕はない人が多いだろうけど、読書感想文のネタ作りがてらたまには善行してみてもいいんでないかと思います。

でもさ、最優秀賞持っていくような人間って「夏休みにロンドンのおじいちゃんの家に行ったとき、スーパーでフードバンクの箱を見かけました。 …… 私が寄付したパスタがネルソンに届けばいいなと思います」とか、お前んちの帰省の飛行機代で我が家の1年分の食費軽く超えるぞ~みたいな富裕層専用のリアリティあるエピソード入れてくるからね。かなわんね。