誰が言ったか、『ロブションに30歳までにデートで行けたらイイ女』。(たぶん東京カレンダー)
若い女だから飯に誘われるのであって、逆に30超えてから高級店に行ける方が良い人生なのでは?とは思わなくもないのだが、全く行かないよりは高級店に行けるような女性の方が華やかな人生であることは間違いない。
因果の向きが逆であるから、別にロブションに行ったからといって美人になるわけでもイイ女判定されるわけでもない。しかし『30歳までに行けたらイイ女』と端的なフレーズを示されてしまうと何としてでも20代のうちに行ってやるぜという気になってきた。足の裏の米粒である(それは博士号)。
というわけで、2ヶ月前から予約を取ってようやくロブションに行けたのでその経緯と感想を書く。
要するに食べログ文学をはてなで書こうとしているわけだが、食べログを見る時に知りたいのは味や価格、メニューや内装であってお前の友人との再会エピソードではない。であれば食べログ文学は食べログではない場所に書き記すほうがよほど人道的ではなかろうか。
さて、まずは行く相手の選定である。
①フランス語が出来る年下の男性
とりあえず1番に声をかけてみた。香川照之と同じ出身校なのでフランス語チョットワカル。あとちょっと顔が良い。行く前は不安があったのでとりあえず語学できる人間を呼びたかったが、行ってからわかったことにはちゃんとメニューに日本語が振ってあってフランス語は全く必要ではなかった。
彼の仕事が忙しく、予定が合わず断念。
②グルメブログを書いている元彼
元彼を呼ぶのはどうかと思うが、グルメには一家言ありそうなので誘ってみた。
「あんまり興味ない。そのあたりの店『このお店にいける私が好き』ってやつが多い。まあ経験として1回行くとかはいいかもしれないけど、それをお前と行くのか?」とにべも無かった。あと、彼によればグルメ界隈では同じ三つ星でもカンテサンスの方が人気らしい。
味重視である彼のグルメブログはこちら。それなりに信頼している。
③夫
よく考えたら私には夫がいた。しかしロブションに夫を連れて行く気持ちが1mmも起こらなかった。私は彼の、実を取り、足るを知り(主にこんな嫁に満足しているという点だが)、見栄や虚飾に全く興味が無い性格が大好きなのだ。
ハイブリッドのコンパクトカーを新古で買っちゃうようなところが大好きなのだ。これがベンツのAクラスを買うようになったら心底嫌だ。
見栄が9割みたいな店に連れていくと彼が汚れてしまうような気がするので、家に置いてきた。それも大概どうかと思うが。
④ボンボンだがロブションに行ったことのない大学の先輩
結論から言えば、彼と行くことになった。高級店でも妙な気遅れをしないというのは助かる、私はガチガチに気遅れしていたので。
他の星付きの店は行ったことはあるが、ロブションは初めてということで非常に都合が良かった。
恵比寿のロブションには3つ星の2階と、2つ星の1階とがある。お値段もだいぶ違う。
「どうせ一生に一回しか行かないのだし」と奮発して3つ星のガストロノミーのディナーに行くことにした。
入店当日。恵比寿の駅で待ち合わせをし、先輩と数年ぶりの再会をした。再会した瞬間、ドレスコードを伝え忘れていたことに気付き、滝のような汗が出た。先輩は襟付きじゃないイッセイミヤケのシャツを着ていた。
「ドレスコードある他の店にも行くけど、東京は基本ユルいし大丈夫でしょ」と幾多の高級店の経験を感じさせる先輩の言葉を信じてそのまま店へ。入り口のカウンターでドレスコードをきっちり注意されるハメになった。店が黒いジャケットを貸してくれてどうにか入店。
我々のテーブルについたのはやたらフランクな外人ウェイターだった。トルコアイス屋のおっちゃんのようなフレンドリーさである。彼のおかげで終始楽しい食事だったのだが、日本語の発声が明瞭でないためメニューの説明が聞き取りにくいのだけは少し困った。
この日は緊急事態宣言中で、アルコール類の提供は禁止。正直助かった。ワインを頼むと値が張るし、本当に美味しい料理を食べるのならば酔って感覚を鈍らせたくない。その点は先輩と気が合った。
先輩「食事の際は飲まないんですけど、それだとナメられるのでワインの知識は勉強しました。詰まるところワインは味より知識とステータスのひけらかし合いなので」
金持ちの割にだいぶ斜に構えてるな。
「フランスは地域によって植えられるブドウの品種がルールで決まってるんですが、そのルール無視して作ってるような脱法ワインほど作り手が自信持ってて美味しい傾向があります」という先輩のウンチクを聞きつつ、ノンアルコールのスパークリングワイン、ソージェニーを2人で頼んで乾杯。これが美味しかったので今度下戸の夫にも買いたい。
緊急事態宣言中にレストランに行くと(行くなよ)、各レストランのソムリエが勧めるノンアルコール飲料を知ることができるのは面白いと感じた。
それからは先輩の仕事に関わる話や、タワマン叩きなどをした。
私が「荷物持ってエレベーター降りて、車庫から車出すのに更に5分待つ謎の建物を有り難がるの異常ですよね」と言えば、先輩は「タワマンに住むと特に男性の健康に悪いという論文があるらしいですよ」と返す。
客が少なかったから殺されなかったようなものの、絶対にロブションでするような話題ではない。
平日夜であるためか、店内の客はまばらだった。30代同士のカップル、女性同士の2人組、20代女性と30代男性のカップル、率直に言えば思ったより「普通」の客だった。
「パパ活?」と思ってしまうような年齢差のあるカップルは無かったし、不躾なことを言えばその日はルックスも非常に平均的だった。
オーシャンビューのレストラン(恋愛工学ハーバーとか)みたいなところの方がよっぽどブスに厳しい気がする。
サーブの度に写真を撮るタイミングを店員がきちんと用意してくれることには驚いた。食事中に写真撮るのは無礼だろうとカメラもスマホも出さずにいたのだが、食材の乗ったワゴンを持ってきた店員の側が「え、撮らないの?」と言わんばかりの雰囲気。ここらへん、そこらの店よりよっぽど大衆的だと感じた。紹介制ではないので、お金さえ用意できれば誰でも来れる店と言ってしまえばそうなのだけれど。
いちおう食べログ文学リスペクトなので料理の話をしておく。いちおう。
◯デギュスタシオンコース
・手長海老のサンド
・パンのワゴン
・キャビアと蟹
・インゲン/トマト/コーンスープ
・半熟卵のチーズソース/カエルの脚のフライ/ラビオリ
・オマール海老
・チーズのワゴン
・食後のドリンク
・マンゴーのデザートとソルベ
・デザートのワゴン×2
多い。フルコースってそういうところあるよね。
パン・チーズ・デザートは、たくさんの種類がワゴンに乗って運ばれてくるのでその中から好きなものをチョイスする形式。食べ放題がコース料金に含まれているので、胃袋の許す限り頼んで良い。
料理はどれも手が混んでいて面白かった。
1番美味しかったのはロッシーニ。これのためにお値段上がってでもこのコース選んで良かった!コースの終盤にフォアグラが胃袋をぶん殴ってくるから、最初に食べたらもっと美味しく感じるのではと思わなくもない。フルコースってそういうところあるよね。
意外だったのは名物料理であるキャビア・アンペリアルの味が濃かったこと。キャビアも蟹もそれだけで美味しいからこんなにジュレの味濃くするんだなとびっくり。逆に半熟卵はチーズの味だけで食べさせてくるので「めんつゆブチこみたいなあ」などと考えながら食べていた。味覚が幼稚でごめん。
全体的に美味しかったが、これが人生で1番の食体験だったか?と聞かれるとちょっと迷う。もう一回タダで食べられるなら松屋の旧ビビン丼とロブションのどちらがいいか?と聞かれるとだいぶ迷う。早く旧ビビン丼帰ってきてくれないかな。焼ビビン丼は何か違うんだ。
お値段は人生でぶっちぎりの1番だった。
ウェイターほぼ固定だったけれどチップは要らないよな、日本だし…と不安になりながら会計。伝票を見ると、6桁の数字が印字されている。大人数での飲み会の幹事をした時しか見たことのない金額だ。
私が誘って店を決めた以上、10万6000円全奢りである。
『ロブションに30歳までにデートで行けたらイイ女』というのは奢られる側の話だから本末転倒なのだが、飯誘われて勝手に店決められた上で5万円払わされたらだいぶ嫌じゃん。ドリンクがノンアルだったのでこれでもだいぶ安く済んでいる。
楽天のシルバーカードで会計をして店を後にした。来月に1000ポイントが付与されることを願いながら。