5/31混雑日万博西ゲート最前奮闘記

大阪ヘルスケアパビリオンのモンハンの予約を取るぞ……と私は意気込んでいた。
5月31日土曜日、この日の万博は当時最高の一般来場者17万人を記録し、次に花火が開催される6/28まで破られることは無かった。当日の私は、そんな記録になるとは知る由もなかったが——

西ゲートの最前を目指そうとしたのは、今回の来場方法が夜行バスになったからだ。
以前にも万博に来ているが、その時は朝の新幹線を使っていたので9時以前に夢洲に到着するのが難しかった。しかし夜行バスであれば7時台に万博会場に着く。8時台に始まる桜島シャトルバスより早く会場入りできる。モンハンの予約に挑むならこの日しかあるまい、私はそう考えていた。

 

午前6時55分。夜行バスは予定よりかなり早く夢洲バスターミナルに到着。
(これは他の夜行バス組よりも一足先に着けたのでは?)と期待しつつ西ゲートに向かったが、既に数十人の列ができていた。

列はだいたい横5人並び。前から15番目に並んだ私の位置は、ざっと見て70〜80番目あたりだろう。7時ちょうどにこの場所に来られるのは、夜行バスの中でも早めの時間に着く便か、わざわざ高いお金を払って来ているタクシー組のみだ。

 

入場ゲート前は柵で封鎖されており、列ができているのは西ゲートよりもかなり離れた位置。とりあえず地面に座り、前日の夜、バスに乗る前に買っておいたおにぎりとお茶を朝食にした。

西ゲート側にはコンビニが無い。夜行バスに乗る前に食事を購入しておかなければ、9時の開場まで何も食べられない。

そのあたりは皆心得ているようで、私の数列前方、50番目あたりには、朝食を持参している5人家族がいた。お父さんの持つカップ麺の容器からは湯気が立ちのぼり、子どもは紙コップに麺を取り分けてもらっていた。お湯は水筒に用意してきたのだろうか。折りたたみ椅子も家族全員分持ち込んでいて、まるで小さなキャンプのようだった。結構な気合の入れようだと思ったが、コンビニが無いからこのようにちゃんと準備しておかないと朝ごはんが食べられなくなるのだ。

 

8時ぐらいに、係員の声が聞こえてきた。列を縮めるために動けと言う。「横に8人になってくださーい」

一歩前に出ようとして、躊躇した。私の前のカップルの男性がさっきトイレに行ったのだ。順番抜かししてるんじゃないですよー、トイレ行ってるのわかってますよーとアピールすべく、待っている小柄でかわいらしい女性のほうに声をかけた。

「旦那さん戻られますよねえ」

「はい、そうなんです」と女性がにこやかに返してくれたので、男性1人分のスペースを空けるようにして私は一列前に移動した。

正直、20代前半~中盤に見えたので、夫婦というよりは単なるカップルである可能性が高いだろう。おべっかの類だが、万博はハレの日であるから、こうやって隣り合っただけの他人に優しくできればいいななどと思ったのだ。あとで「旦那さんって言われてたよ~」などと二人でお喋りしてくれれば嬉しい。

そのうちに男性がトイレから戻って来た。「すみません」とも言わずに私に触れそうなぐらいに近くを通ったのには少し驚いた。

「座りたいんだよね」と彼は言った。私はそれを何の気なしに聞いていたのだが、数秒経っても彼は座ろうとしなかった。座れるぐらいにはスペースあるだろうに、と。

そこでハタと気付いた。彼はこっちを見もしないが、要するに私に邪魔だと言っているのだった。

(抜かされたと思って気分を害したのかな)と私は考えた。彼女さんの側もフォローしねえが、仕方ない、と一歩下がった。ちょっと愛想を振りまいた割にやるせないな、としょんぼりしたが、もとよりこっち側の勝手な押し付けだ。

 

列が動き始めた。ゲートまでの距離を柵で作った通路に沿ってぐねぐねと動かされる。係員は「通路いっぱいに横に広がってくださーい」と指示していた。それに従うと、さっきまで作った横8人の列はいともたやすく崩れた。順番がぐちゃぐちゃになりかけるが、さっきまで隣にいた家族を目安に自分の位置を保ち続ける。私は自分のことを70~80番目だと思っているから、目測ではあるがそれぐらいの位置にいるように努めた。

が、後ろからぐいぐいと押し込まれる。悪意があるのか無いのか。そうでなくとも、列の幅をなし崩しに広げたせいで、順番はあってないようなものになっていた。人を押したいわけではないが、後ろから押される。人が後ろから抜いてくるので、抜き返さなければ自分の位置を維持できない。嫌だな、と思いながらも、ゆっくりと進んでいく。

列は不必要なぐらいにぐねぐねと迂回した。カーブを曲がるたび、内側の人間は押しつぶされて、外側にはスペースが生まれた。何回か移動した後、外側のスペースを使って抜かそうとしてくるオッサンが目に入るようになった。

そのおっさんは東方プロジェクトのZUN氏に似ていた。いや、冷静に思い出すと顔つきはそう似ていなかったかもしれないが、単に黒のハンチング帽をかぶっていたので、とりあえずここでは彼のことをZUNと呼ぶ。

(イメージ)

ZUNは朝一の時点で絶対私の前に居なかった。というか、一度トイレで抜けた時に後ろ数列も軽く見たはずだが、まったく記憶にない。おそらく彼は数十人分を既に追い抜かしてきたのだ。

自分のいる側がカーブの外側になるたび、ZUNは順番を抜かそうと走る。人混みの中、両足が完全に地面を離れているであろうスピードで彼は移動していた。ついに私自身が抜かされそうになって、私は鞄を彼の前に出してガードした。

ここから私と彼との小競り合いが始まった。彼との小競り合いはゲート直前まで続いた。

気付くと、私の直前にはあのカップ麺家族がいた。彼らを抜いてはならない、彼らは私より先に到着していたのだから。しかし、ZUNはその家族ごと抜こうとした。というか、家族が5人もいるので家族の間にねじ込もうとする恰好になった。私はついに、彼の襟首をひっぱってしまった。変なおっさんvsそれを止めようとする変な女の構図爆誕

悪意のない抜かし抜かされが多発する中、「やらなければやられる」という弱肉強食モードのスイッチが入り、私も大概ハイになってたと思う。

そのうちに、狭い通路が終わり、ゲート前の開けた空間に最前がたどり着いた。そこからしばらく、自分がどう移動したのかあまり覚えていない。たぶん、小走りで一番左のゲートに並んだと思う。ここらへんでZUNは私の前からは見えなくなった……と思う。慌てて走ったせいで記憶が曖昧だが。

ゲートに並ぶと、すぐ目の前が先ほどのカップ麺家族だった。ゲートの中では15-20番目ぐらいか、全体的に抜かされてしまったかな……とまた目視で人数を数えていると、ゲートの最前に見覚えのある人物がいた。小柄な女性と、横柄な男のあのカップルだった。

カーッと腹が立った。そうかそうか、つまり君はそんなやつだったんだな。意図的にガンガン抜かしたのでなければ到底無理な場所に彼らはいた。やるせなさでへなへなと力が抜けそうだった。

 

8:55ぐらいだったか、9時より少しだけ早く入場が始まった。会場内部に近いからと一番左側のレーンに来たが、ハズレだった。かなり進みが遅かった。手荷物検査を待つ間、ゲートの向こう側の会場内を右から左に移動していく人が大量に見えた。おそらくはP&R駐車場優先レーンの人々が私より先に入場していた。私の入場は500番目ぐらいになっていたのではないだろうか。

ようやく入場出来た時、西ゲート横の当日登録端末は既に長蛇の列だった。WASSE横の端末を目指して移動している間に、チケットサイトの当日登録が開始された。

 

大屋根リング下で歩みを止め、スマホの操作に集中した。

モンハンに△が付いている。×ではない。もしかして、まだ枠があるかもしれない。

期待に胸を膨らませながら、時間枠のページに遷移する……あ、滑り止めの国連の予約時間とカブって取れなくなってる

 

_(:3」∠)_ 

 

今度こそ完全に力が抜けた。

その時間枠が最後の1枠だったから、たとえ予約がカブっていなかったとて取れたかはわからないのだが。しかし自分の選択が原因で失敗したというのはショックが大きくなるものだ。(´・ω・`)

こうして私のモンハンへの挑戦は失敗という形で幕を閉じた。最前のいざこざで心をすり減らしながら並んだのに。あれ以来、まだモンハンは体験できていない。1日360人は無理だよ。